2020年度に向かって

2020年度に向かって

一般社団法人電子連絡ノート協会 理事長 野本愼一

 在宅医療患者自身が情報発信の主体となり(patient centricity)、多職種がいつでもどこでも情報共有できるクラウド型在宅医療情報共有システムを、電子連絡ノートと銘打って開発を開始したのが、2010年4月でした。その開発のため、皆様方のお知恵を拝借する目的でユビキタス在宅医療研究会を発足させ、その後電子連絡ノート研究会と名称変更し、毎月開催してきた研究会も2019年8月で100回を数えるまでにいたりました。これもひとえにお忙しい中、研究会に参加いただいた皆様方のおかげと感謝申し上げます。

 2019年度は、電子連絡ノートの派生系である「施設ケアサポ」のバージョンアップに関し、公益社団法人全国老人福祉施設協議会が支援している老施協総研調査研究助成事業に採用され、社会福祉法人山彦会と連携して共同調査研究を行いました。その結果、現場に即した、より使い易い情報共有システムとなり、今後全国展開を目指す予定であります。

 電子連絡ノートのもう一つの派生系であるLVAD@homeは、名古屋大学薬剤部を中心に名大版を作成し、左心補助人工心臓を植え込まれた患者さんを対象に使っていただいております。名古屋大学当局から引き続いてご使用していただけるご許可をいただきました。

 新しい事業への取り組みも開始しました。在宅医療現場で完治を望めずエンドオブライフを過ごしている患者さんのもつ悩みや不安に対し、医療職では充分対応できる時間も技術もない中、苦しみへの理解や「傾聴」の技術をもった臨床宗教師という職種が向き合って、その結果を情報共有するプロジェクトです。それによって、スピリチュアルペイン(自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛)を和らげる効果や、それを多職種間で情報共有する意義に関する研究が公益財団法人在宅医療助成勇美財団の調査研究に採用され、現在京都・滋賀で研究を進めております。

 昨今、新型コロナウイルスが世界を席巻する中、我が国ではこれを機会に大きなパラダイムシフトや、日本人の意識改革が起こりそうな予感がします。この原稿を書きはじめてからも、日々変化する状況のため、原稿もその都度書き直していかざるを得ませんでした。

 軽症者は病院でなくホテルに収容し管理しようという方針が出ました。おそらく、日々の患者情報収集は紙ベースで行われるのではないかと想像しております。幸い電子連絡ノート協会は「施設ケアサポ」という情報共有システムを開発しました。ホテルに収容された患者さんにこのシステムを利用すれば、クルーズ船で見られたスタッフがいたずらに患者さんと接触するようなことなく、しかも明日にでもシステムを立ち上げることができ、多くの収容者を充分に管理できるのではないかと思っております。また、自宅待機の患者さんには電子連絡ノートを使用するようにすれば、多くの人的資源をさいて電話やFAXによる情報収集をする必要もなくなります。

 今まで多くの問題や規制のため、普及できなかったオンライン診療も規制緩和が進み、電子連絡ノートが「健康相談」でなく診療報酬を得られる新しいカテゴリーとして認められる日が一日も早く来ることを期待しております。まさに今こそ、電子連絡ノートの出番だと思っているのですが‥‥。(2020.04.06)